☆★☆ たこやきめぐり 第11回 ☆★☆

 
鍋から味から保温器まで 特製のうまさ、ここにあり!
− うまい屋 その2 − 

熊谷 真菜

 4年前から息子さん夫婦も参加して、うまい屋はますます盛り上がる。独特の店構 え、独特の焼き鍋、そして独特の焼き方。出かけるたびに発見はふえる。

 以前、朝日新聞の取材でもおじゃましたことがあった。焼く風景を撮らせてもらっ て、中で腰掛けて食べていると、喜多さんが突然やってきて、私の皿からひとつを取 り上げ、手で口へほうりこむ。


 「やっぱり焼きすぎや」。少しいらだっている。おびえながらたずねると、「さっ きカメラ気にして手をゆるめたんで、これ失敗や」、ということだった。

 たこ焼職人とでもいおうか、一つ一つに命をかけて焼くおじさんの姿。こういう精 神があるからこそ、毎日同じ味を焼き続けることができるんだろうな、私なりに実感 した。


 油はラードをつかう。黄色の天かすもほかの店では見たことがない。鍋の様式もさ ることながら、鍋で細工された保温箱。喜多さんは樋(とい)と呼んでいる、こんな 上等な保温器具はどこを捜してもないはずだ。ぽこぽこと鍋の窪みにあふれんばかり に焼きあがったアツアツのホヤホヤが、その樋におさまっていく。