こ や き   ぐ り  第 16 回

あべので花ひらく もちもちの食感

「櫻」 その1

熊谷 真菜



 この歳になると人生、いいことも悪いことも一通りは体験しているからか、少々のことで、落ち込んだり、舞い上がることはなくなるものだ。

 できるだけ、自分にマイナスな感覚については素通りすること。
うれしいこと、気分のいいことは、小さなことでも大きく味わう、そんなコツというか、テクニックが、身についてくるものである。
 お若いですね。まだ20代かと思ってました。お子さんがいらっしゃるなんて、ホント信じられませんよ。
 たとえばこういう類のフレーズは、社交辞令として聞き飽きているはずなのに、面と向かってまじめに言われると、やっぱりそうなのかなあ、なんて素直に喜んでしまうものなのだ。



 今回のたこやきめぐりでは、うまいたこ焼の前菜として、ほめ言葉攻撃を受けることになる。
 咲隊員と私という強力人妻コンビを、お店のご主人、島本忠幸さんは、最初から大歓迎してくださった。

 こんな美人がふたりも来たら、おっちゃんどきどきして、仕事にならへんわ。

 開店準備のあわただしいところに押し掛けたにもかかわらず、暑いから何か飲み物を、と気づかってくださり、手を動かしながら、私の質問にも、ていねいに答えてくださる。



 お店は28年まえから。
 ちょうど真向かいに阿倍野警察署があるので、「警察前のたこやき屋」という愛称で、口コミのうわさが広がっていった。

 前の署長さんも部下への差し入れに何十個もたのんでいったり、自転車を止めて、買い物帰りに立ち寄るおばちゃんもあとをたたない。
 百円玉一個をにぎりしめて、ポツンと「たこ焼ください」と立っている、小学生の女の子など、地元の人たちには欠かせない味だ。

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